読むに至った経緯

死、について考えることに対する抵抗が、周りの友達とかと比べて自分は少ないような気が?します。大切な人が亡くなって悲しみに暮れるような話が出てくる本に、どっぷり浸かったりする。それは、悲しみを感じないということではなくて、(むしろ全部感じて号泣するタイプ笑)そういういわゆる「憂鬱すぎる」ような本って、人生についてすごく考えさせられる気がしていて、そこが好きです。ウィル・シュワルブ著「人生の終わりのブッククラブ(※私のアマチュア訳題笑)」もそういう本でした。何かの読書関連のメーリスで流れてきたか、どこで見かけたのかははっきりは忘れてしまったけど、生と死についてじっくり考えてしまうようなテーマに惹かれて、迷わず読みたいリストに追加しました。


本の概要

著者ウィル・シュワルブさんのお母さんは、70代前半で、ステージIVの膵臓癌という診断を受けます。膵臓癌は進行もはやく、一般的にはステージIVの診断を受けた患者さんは余命2〜6ヶ月という、あまりに恐ろしい告知。それでも癌の進行を少しでも遅らせるため、お母さんは化学療法の治療を始めます。もともとお母さんもウィルさんもかなり熱心な読書家。治療に付き添うウィルさんは、定期的にやってくる病院での待ち時間中、自然と最近読んでいる本についてお母さんと話し始めます。こうして始まった「人生の終わりのブッククラブ」–– ウィルさんとお母さんは一緒に読んでいく本を通して、不安と勇気・希望と絶望・運命・忍耐・信仰・優しさ・愛・生・そして死など、様々なテーマについて語り合っていきます。


印象に残った部分

ウィルさんがお母さんの闘病のストーリー、そして闘病中に一緒に読んだ本について語るにつれて読者側に強く印象に残るのは、一緒に本を読むと、普通は話す機会がないようなことを話すきっかけが生まれるということ。

時には、小説に出てくる登場人物が、忘れていたような遠い昔の記憶を思い出すきっかけとなります。ウィルさんが、子供の時に辛い気持ちになった思い出を話してお母さん側はどう感じていたのか訊いてみたり、お母さんが、ウィルさんが生まれる前の学生時代の思い出を共有したりします。

また、とある本によってウィルさんとお母さんは、普段はお互い話すのを控えていたデリケートな話題である「信仰」について話す機会を得ます。熱心なキリスト教徒のお母さんに対して、どちらかといえば無神論者に近いウィルさん。信仰について、2人の価値観が同じになることはないけれど、本を通してお互いの考えを話し合うことはできます。

ウィルさんとお母さんは、読んでいる本を通して死について語り合うこともあります。あまりにデリケートなトピックでも、自分たち自身の文脈ではなく、本の文脈で語り合うことで、一歩下がってお互いの考えやその背景を共有することができるのです。

最後に、本の中で強く印象に残った部分を引用して終わりに入りたいと思います。ウィルさんとお母さんが例にならって病室で、最近一緒に読んだ本を議論をしている場面。ウィルさんはふと、このブッククラブについて、正式に一緒に本を読み始めたのはお母さんの癌診断後だったものの、ウィルさんの物心ついた時からお母さんとは、最近読んだ本の話をしたり、お互いに本を勧めて読み合ったりしてきたなと改めて気づきます。(注:重ねてになりますが私のアマチュア訳です笑)

そこで私は気づきました。 「お母さん、今気づいたんだけど、こののブッククラブって、私の物心ついたときからやってたみたいなものだよね。」 母はそうだね、と言ったものの、 「まあ、そう言ってしまえば私は他の親戚や友達とも同じことをしていたけれどね。」 と、付け加えました。 「みんなやってるブッククラブ、ってことかな。」 母のこの言葉に私は自然と笑顔になりました。きっと母の意図は違ったのだろうけれど、私には、「みんな、人生の終わりのブッククラブ、やってるってことだよね」という意味に響いたからです。人生いつ何が起こるかわからないもの。今読んでいる本が人生最後の本かもしれないし、今話している相手との会話が最後の会話になるかもしれないのは、闘病している母も、健康な私も、実はみんな同じこと。そう母が言っているように感じたのです。

いつ死がやってくるかなんてわからないけれど、癌と闘う人も、そうでない人も、実は皆同じスピードで最後の日に向かっている。それは実は悲観するような事実ではなくて、ただ生きていられる毎日の尊さ、素晴らしさ、愉快さ、楽しさ、有り難さを教えてくれる気づきであると私は感じます。

終わりに

あまりにありきたりかもしれないけれど、この本を通して、本を読むって素敵なことだなと、改めて痛感しました。いろんな悩みや苦しみを抱えて生きていても、時空間を超えて、たくさんの人が、同じような辛い経験をしたり、似たようなことで思い悩んだりしている、と教えてくれる。周りにいる人と、今までしたことのないような新しい会話をするきっかけを与えてくれる。そして、世界は広いというか(笑)、まだまだ途方もない量の未知の世界があることを教えてくれる。私自身も、小さなスケールではあるけれど、仕事で思い悩んだりしたときなんかに、本はいつも一歩下がって見る(または全然違う方向を見る)手助けをしてくれます。