ほぼ初めてのSF

SFというものを、子供時代以来、全くと言って良いほど読んだことがありませんでした。私にとって読書は、生産活動とは無関係な位置にある、純粋に楽しむためだけのアクティビティ。自分の仕事がサイエンスと深く関わっていることもあり、読む本は無意識にサイエンスから遠い本を選んでいたのかもという気もします。テッド・チャンの短編集「息吹」は、なんと2年以上も読みたいリストの中で辛抱強く待っていてくれた本でした。あまりに長く読みたいリストの中で放置してしまっていた本は、他に読みたいのがどんどん出てくるので「もう読まないか、、、」と削除してしまうこともたまにあるのですが、この本になんとか辿り着いて本当に良かった!!ぐっと引きこんで離さない、物凄く面白い本でした。


心の深いところに働きかけてくる本のテーマ

恥ずかしながら、浅はかにも「息吹」を読む前は、SFって「サイエンスフィクション」というだけあって、まんま「サイエンス」がテーマなんだろうな〜と勝手に思っていました。ハリウッド映画とかを見ていると、かっこいい宇宙船だったり、近未来的なデバイスだったりが出てくる印象が強く残っていたためか、SFもそういう、テクノロジーの進歩のすごさみたいなところに焦点が当たっているんだろうと。

こんな浅はかな出発点から来ていたため、実際にこの本を読んでみると、テーマの深さ、語り口のインパクト、創造性、、、いろいろな側面から、吹き飛ばされるかと思うほど感動しました。扱われるテーマ、投げかけられる問い(ここの感じ方もきっと人それぞれなのでしょうが)は、いわゆる「テクノロジーの弊害」みたいな安易なものではなく、深く考えられた難解なものでした。例えば、「私たちが使っている道具によって、思考プロセスはどのような影響を受けているだろう?」「人間に自由意志はある?そもそも自由意志とは?」「私たちの人生、日々の意思決定に『意味』はあるのか?」などなど。心をぐっと掴まれる語り口のストーリーを追うと、時に生々しい感情を掻き立てられたり、時に深く想いに耽らされたり。自分の今いる世界を忘れて物語の世界にどっぷり浸かってしまう、最高の時間を与えてくれました!


「人生を変える」本

この本を読んで、今まで考えたことのないようなことをたくさん考えました。そんな中でふと、読んだ本が人の人生に与える影響って大きいなあと、改めて感じました。ただ紙に字が記されただけの、気取らない存在。なのに、本を読んで新しいことを学んだり、今まで出会ったことのないような登場人物に出会ったりする中で、どんなに小さくても、読んだ本は、世界の解像度を上げてくれます。気づかないほど小さな変化かもしれないけど、本って私たちの人生を変えているんだなあ〜という、当たり前のようで嬉しくなってしまう気づきでした。