読書の秋です

もうすっかり秋も深まってきました。アメリカではカエデの木などが多い北東部が紅葉で有名ですが、私の住んでいる中西部もなかなか負けていないように感じます。もう今いる中西部に引っ越して5年以上(!)経ちますが、歳でしょうか笑、赤・黄・橙・茶と様々に色づく紅葉には、本当にうっとりと見惚れてしまいます。

紅葉に加えて、秋といえば読書!ということで、私はいつもにも増していろんな本に手を出しています。過ごしやすい気温になってきた日中に陽の光の下で楽しむもよし、長くなってきた夜を読書で楽しむもよし、ですね。

さて、今回はそんな中でも最近特に面白くて感銘を受けた一冊を。


19世紀末の「電流戦争」を鮮やかに描き出す歴史小説

グレアム・ムーア著「訴訟王エジソンの標的」(英題は “The Last Days of Night”)は、事実をもとにした歴史小説。舞台は19世紀末のニューヨーク・マンハッタンで、時代はまさに、それまで街を照らしてきたガス灯が電気照明へと移り変わろうとしている瞬間です。人々の中で、この新たな技術への興奮や不安が高まると同時に、街中の会社という会社が、なんとかこの新しい技術から一儲けしようとしのぎを削り合います。当時、磁石とコイルを使うと熱や光を発する「電流」なるものがあることは発見されていましたが、ほとんどの人は、電流が一体どういうメカニズムで生まれるのかさえ不明の状態で技術を利用しており、安全性への配慮の仕方もよくわかっていなかったため、感電事故や火事も頻発します。しかし、ガス灯の比ではない明るさで夜を照らし出す電気照明は、そんな不安をも押し殺すほど画期的であり、民衆を、そして事業家たちをどんどん虜にしていきます。

この本のストーリーに登場するのは、ほぼ全て歴史上実在の人物ですが、今きっともっとも名前が知られているのはもちろん、トーマス・エジソン。エジソンは、電球を開発した天才発明家として有名ですが、「電球を本当に最初に発明したのは誰?」という問いへの答えは、一般に知られているほど明確ではないようです。1番有名となった特許を取ったのはエジソンでしたが、電流による発光はその何十年も前に実現していましたし、そもそも「電球」という今まで存在しない商品を作った場合、その「電球」というくくりでどこまでの商品がその特許でカバーされるのかは非常に不明瞭です。

そんな時代を背景に「訴訟王エジソンの標的」では、電気照明にまつわる法廷闘争、技術闘争、そしてビジネス闘争が臨場感たっぷりに描かれます。闘争を繰り広げるのは、当時の電機会社二代巨頭、ウェスティングハウス・エレクトリックと、エジソンのゼネラル・エレクトリックで、この有名な争いは歴史上「電流戦争」と呼ばれているらしいです。

グレアム・ムーアさんの語り口は、読み手を活気あふれる19世紀末マンハッタンにぐっと引き込んで離しません。ただドラマチックに留まらず、それぞれの歴史上実在の登場人物に深みがあり、様々に異なる意図・目的・欲・才能・そして不完全生を抱えた存在として描かれているのも印象的でした。欲望をはらんだ駆け引き、絶望の中に生まれる希望、愛、成長など、面白いテーマがたくさん詰まった、最高のエンターテインメントを提供してくれました!

それにしても、電気が一般化する前とあとで生活が大きく変わったことはぼんやりわかっていたけれど、電気が今まさにひかれようとしている瞬間というものが、いかに凄まじいものだったかというのは考えたことがなかったです。それがほんの少し味わえたような気持ちにさせてくれた本でした。